ひらせのはなし

【こゝろ】朗読会のワイン

「夏目漱石の『こゝろ』の朗読会を行うのですが、お集まりのお客さまたちと朗読後にグラスを傾けながら過ごすひとときを設ける予定で、もしできましたらその場にふさわしいワインをお願いいたします。」

たいへん興味深いお問い合わせをいただきました。
昨年12月のことです。

朗読家の岡安圭子さんも、朗読会場となる森岡書店さんも以前より存じ上げておりますし、『こゝろ』は20代の頃に何度か繰り返し読んだ本のひとつであり、漱石が書いたものの中でも特にわたし好みの一冊なのでした。

「きっとそれは、とても素敵な朗読会になるだろう」ということは直ぐに分かったのですが、「はたしてどんなワインがふさわしいのだろう」と、しばらく数日のあいだ悶々と過ごすことになりました。不本意ながらゆっくりと読み直す時間は取れず、20年以上前に読んだ本の内容と印象を思い出しながら、読後感や『こゝろ』の世界観、漱石の思いに重なるようなワインをお選びいたしました。

以来、2ヶ月に一度催される朗読会にあわせて、おすすめのワインをお届けしています。ともすけの営業日と重なるため足を運べないのが残念ではありますが、私も毎回岡安さんの『こゝろ』の朗読を訊かせていただいているような感覚があってとても不思議で、たいへんありがたいお仕事です。

再読せねば、そろそろ再読せねばと思っていたのですが…。新緑の季節に持ち歩いて、先生のこゝろの揺らぎにもう一度そっと触れてみようと思っています。