蒐集して鑑賞して記録する
まだ5月だというのに雨のち雨の1週間となった週末の昼下がり、曇り空を見上げながら銀座の森岡書店まで出掛ける。その日は「GREY LIST」という上下2巻の本の出版記念展の最終日で、著者の阿部昌和さん自らが針を落とすレコードを聴きながら、着席してゆっくりと拝読させていただけるという貴重な機会だった。
広辞苑のようにぶ厚いその本は、約20年続いた初期盤レコード通信販売のために書かれた冊子をまとめたものだ。古いアナログレコードは同じタイトルでも1枚毎に音が異なるとのことで、1枚毎の説明が約1万5千枚分、整理番号順に収められている。曲目や演者や収録年などの基本情報とレコード自体の状態、そして阿部さんが実際に聴いた感想がそれぞれ丁寧簡潔に書かれていて、それらがただひたすらに並んでいた。とても静かに、とてもしっかりと。
私はレコードについての本を読んでいるというよりも、レコードに魅せられた阿部さんの人生を凝縮した長編映画を観ているかのような、とても不思議な感覚に陥った。阿部さんの暮らしや考え方が圧倒的な密度で詰まっているのだ。
そして阿部さんの仕事は私の仕事にぴたりと重なって見えた。それは全く予想だにしていなかったことでとても驚いたし、少しばかりナーバスな気持ちにもなった。果たして私は深く探求し真摯に説明しているのだろうか。クラッシックが流れる室内でゆっくりとページをめくりながら、上手くは言葉にできないけれど何というか私はショックを受けて、そのあともしばらくずっと考えることになった。